シナジーマーケティングは、2023年2月より、進学や就職を機に地元を離れる若者とふるさとをつなぐコミュニケーションサービス「FAVTOWN(ファボタウン)」を提供するなど、関係人口を創出・育成する事業を展開。あわせて、自治体や同じく地域創生事業に注力する企業との提携や支援を推し進めています。
そのひとつが、中川政七商店と三菱地所の共同事業「アナザー・ジャパン」です。地域創生を担う次世代の育成を目指し、学生が本気で商売を学び実践するスタイルの47都道府県地域産品セレクトショップとして、2022年、東京駅前に開業しました。シナジーマーケティングは2023年8月より第二期サポーター企業として支援させていただくことになりました。
このたびは、第二期のスタートに際して、FAVTOWNのプロダクトオーナーである平手さんとメンバーの若手社員がアナザー・ジャパンの店舗を初訪問。アナザー・ジャパンのプロジェクトマネージャーである中川政七商店の安田氏と同事業の運営に参加する学生2名を交え、近しいミッションを掲げた事業への思いや責任者の役割、将来の展望など、地域創生の現場のリアルについて語り合いました。
(取材/編集:経営推進部 ブランドマネージメントチーム)
プロフィール
平手和徳 / シナジーマーケティング株式会社 ビジネスクリエーション部 部長 FAVTOWNプロダクトオーナー
兵庫県出身。事業構想修士(MPD)。通信系営業会社を経て2010年にシナジーマーケティング入社。クライアント企業へのCRM導入ディレクター、Yahoo!JAPAN との新規事業開発を担当し、2020年にビジネスクリエーション部部長に就任。複数の新規事業プロジェクトのマネジメントを行いながらFAVTOWNでは最前線に出てサービスを推進中。
藤井香帆 / シナジーマーケティング株式会社 ビジネスクリエーション部 ビジネスデザイングループ
福島県出身。2021年にシナジーマーケティングに新卒入社。FAVTOWNの情報発信、地域の方とのコミュニケーションを担当。
安田翔 / 株式会社中川政七商店 カンパニーデザイン事業部 教育事業ディレクター
北海道出身。会長である中川 政七氏とともに、中小企業に必要な経営・ブランディングの手法の体系化・プログラム化に取り組む。アナザー・ジャパンではプロジェクトマネージャーとして学生の教育プログラムの設計や伴走全般を担当。
鈴木乃子 / アナザー・ジャパン1期生
岐阜県出身。中央大学国際経営学部。アナザー・ジャパン第一期メンバーとして店舗のコンセプトづくりから携わり、「アナザー・チュウブ」を担当した。現在は2期生のサポートにあたる。
鈴木優雨 / アナザー・ジャパン2期生
兵庫県出身。慶応大学法学部政治学科。アナザー・ジャパンのコンセプトや1期生の活躍に共鳴。2期生となり、「アナザー・キンキ」の担当が決定。
「地方」にはいい人材がいない!?私たちが地域創生に取り組む理由
平手:
まず安田さんが感じた地域の課題と、新規事業に至った経緯を教えてください。
安田:
はい。課題については、中川政七商店の事業である工芸メーカーのコンサルティングや流通支援で各地域を訪れるたびに、素晴らしいものを作っているにも関わらず、経営ノウハウや流通販路などの知見不足もあって、舵取りできる経営者が少ないなと感じていました。
平手:
私の場合は、参加した和歌山市のワークショップで、県内には大学の数が少ないため高校卒業後に地元を離れる学生が多いと知ったことが最初の気づきでした。他の市町村で行ったフィールドワークでも同じ悩みに触れるなかで私は、若い人の流出はもちろん、地元と縁が切れてしまうことが課題なのではと思ったんです。それで、地域の関係人口の拡大と育成を図るサービスを構築し、「FAVTOWN wakayama」をスタートしました。
FAVTOWN では地元の情報や地元で使えるクーポンを配信したり、地元の企業さまに協力いただき、会員が成人や新社会人になられた時には、無料で地元の特産品や日用品を詰め合わせた新生活応援ギフト「ふるさと便」を届けています。サービス開始から半年時点で1,500人が会員登録、50を超える和歌山市の企業や団体にサポートいただいています。
安田:
地域の関係人口の拡大と育成という点は大変共感します。私たちは以前から優秀な人材が東京に集まる今の日本社会の流れを逆転したいと考えていて、そのためには、若い時から地域の魅力的な事業者と関わる取り組みがあればいいのではと着想しました。そこに経営の教育と実践を掛け合わせれば、経営者不足などの地域の課題解決にもつながると思い、「学生経営×地方創生」のアナザー・ジャパンが生まれました。
アナザー・ジャパンの店舗では全国を6エリアに分けて2か月ごとに物販の企画展を開催。公募で選抜した18人の学生が出身地ごとに3人編成のチームを組んで、担当エリアの商品の仕入れや店舗の企画運営を行います。経営の学び、実践はもちろんですが、地域と人びとの関わりを通じて、地元の魅力を発見したり、将来就職や副業で携わりを持ち続ける「関係人口創出」が目指すゴールです。
平手:
事業の内容は違いますが、ゴールは同じですね。とくに若い人を地域につなぐことは地域創生にとって重要であり、私たちに与えられたミッションだと思います。
商売はシビア。「学生だから」の忖度なしのリアル店舗経営
平手:
今日は初めてアナザー・ジャパン店舗にお邪魔しましたが、魅力的な商品が揃っていますね。商品の選りすぐりや地域の事業者さんとの交渉はなかなか大変ですよね。学生さんは苦労されているのではないですか。
安田:
その通りです。学生への応援、アナザー・ジャパンへの賛同から商品を託してくださる方が大半ですが、門前払いも、第1期で扱っていた商品が第2期ではNGになることも。地域の事業者のみなさんは、商売としてフラットに、シビアに対応されます。私としては、そこから学生に多くを学んでほしいと思っています。
平手:
地域での、人びととの関わりの温かさと厳しさの両面を体験できることは大変貴重です。しかも、学生さんの経営研修では中川政七会長をはじめとするビジネスの先輩方から経営ノウハウを直伝いただけるんですよね。学生さんがうらやましいな。
安田:
ありがとうございます。ところで、平手さんは東京駅からお店に来られて、ロケーションについてどう思われましたか?
平手:
駅前とはいえ5分ほど歩きました。それと、店舗入り口がビルの正面ではなく、裏手に面していますね。
安田:
アナザー・ジャパンに行こうとしなければ、足が向きにくい、ややわかりにくいですよね?しかし、学生の教育の場としては絶妙な立地です。商業施設に属さない路面店としては売上目標も高く設定しているので、いかに来店してもらい、購入・売上につなげるか。経営研修後、私たち本部は売り場には立ちません。普段は、奈良の本社で学生からの日報を待っています。
平手:
すべて学生さん任せだとは。
安田:
すべてを任せることで、問題を発見した際に、絆創膏を貼るような応急処置ではなく、根本から解決を図る問題解決能力を自分たちで試行錯誤して養ってほしいからです。例えば、ここにいる2人はInstagramでの情報発信も担当していますが、単に商品を紹介するだけでいいのか、どうすればお客さんの興味を引くか、来店・購入につなげるか考えることが不可欠です。
平手:
任せる勇気と見守る距離感はとても大事ですよね。FAVTOWNでもここにいる藤井さんが中心となり、できるだけ「ふるさとの温もり」が伝わるよう試行錯誤しています。デジタル上のコミュニケーションはどうしてもドライになりがちですが、Instagramでの情報発信の工夫をしながら、物品とともに作り手の思いを記したリーフレット、手書きのレターなど、アナログでウェットなコミュニケーションも心がけています。ある会員さんから「遠く離れた地で故郷の品が届き、人びとの温かさが伝わって涙が出た」という声をいただいた時は、私たちの思いも伝わったと感動しました。
鈴木乃子さん:売上が上がらないと自分もチームも苦しいし、何より商品を託してくださった地域の方々に申し訳ない気持ちでいっぱいに。だからこそ、どうすればいいか解決策を必死で考えました。それによって成功した体験は私の今後の糧になることは間違いありません。
鈴木優雨さん:2期生は1期生の思いを継承しながら、また新しい価値を地域の方々、お客様に提供しなければならないプレッシャーはあります。そのためには、私自身が地域でこれまでにない発見をしていくことが大切だと思っています。
藤井さん:私はInstagramでFAVTOWNの情報発信を担当していますが、一次情報のシェアだけにならないよう、閲覧者のニーズ、フェーズを分析し、感情に響くような情報を発信するよう工夫しています。
もがきながらも前へ。社内での理解と共感のために奔走した日々
平手:
安田さんは新規事業の責任者ゆえの苦労って、ありますか。
安田:
ありますよ。挙げたらキリがない(笑)。何よりも大変なのは新規事業には答えがないことですね。正解を求めて模索の日々。誰よりもコミットして汗をかいているつもりです。
平手:
答えがない苦しさ、よくわかります。一方で、責任者が迷ったり、立ち止まったりしては事業もスタッフもストップするので、手足を動かし続けなければいけないプレッシャーもありますよね。安田さんの言うように、たくさん汗をかいた結果、同じ思いで動いてくれる人や共感してくれる人が社内外に増えていくことも、この仕事の醍醐味だなと思います。
安田:
私も新規事業の責任者として、社内へのコミュニケーションは大切にしています。中川政七商店としては、このプロジェクトは一定の赤字を覚悟の上で取り組んでいます。とはいえ、社内のさまざまなリソースを活用しているので、全スタッフの理解、共感を深めていくことが欠かせませんね。
生き残るのは郷土愛にあふれ、変革を楽しめる人がいる「地方」
平手:
新規事業に対する社内の理解・共感にも通じますが、地域創生は地元の方々の理解と共感、多くの人への波及が必要ではないでしょうか。
安田:
おっしゃる通りです。大切なのはやっぱり「人」。商品を託してくださるのは、商売ということはもちろん、学生の人柄や熱意が伝わったからなんですよね。私が教育事業で出会う地域の経営者も、例えば「継承者不足で衰退傾向にある工芸品を復興しなければ」といった危機感を抱いておられますが、それ以上に、自分たちの資源や歴史、文化を活かして、おもしろいことをやってみようという熱い方が多い。しかも、こういったマインドを持っている経営者やメーカーほど、経営が好転したり、新たな事業を展開、拡大されたりしています。少子高齢化をはじめ、「地方」には課題が山積していますが、ネガティブな課題解決だけに目を向けるのでなく、ポジティブな魅力を活かした施策の実践も重要だと思います。
平手:
同感です。最初に一緒におもしろがってくれる人に出会えるかは、大きいですよね。「FAVTOWN Wakayama」のきっかけを作ってくださった和歌山市議の方も、導入に携わってくださった和歌山市の担当者の方も、「おもしろいからやってみましょう」と、実績ゼロの事業にも関わらず前向きに取り組んでくださいました。根底にあったのは、地元が好きで、地元好きな若者がもっと増えてほしいという純粋な「郷土愛」だと思います。危機感は必要ですが、地元への誇りと可能性を信じている方々との仕事は、とても刺激的で力も入りますね。
安田:
私は奈良で「まちづくり」のプロジェクトにも関わっていますが、奈良の担当者の方もアグレッシブですよ。企業もそうですが、行政はなおのこと「変革」が難しい。しかし、それに取り組む思いを前面に打ち出し、熱意ある担当者とそれを支えられる意思決定者が揃っている自治体は課題解決などが上手くいっている印象です。熱いマインドを持った人の有無で「地域差」が生まれ始めていることは現場で実際に感じます。私たちだけでなく、アナザー・ジャパンの学生たちも熱意や可能性がある地域なのかどうか、敏感に察知しているようです。
平手:
受け入れ側のコンディションって、重要ですよね。この事業を通じて、たくさんの学生さんと会話する機会があり、今日もアナザー・ジャパンの学生さんと話していて驚いたのは、社会や生まれ育った地域に対して何かしたいという熱意にあふれる若い世代が多いことです。アナザー・ジャパンは、その熱意をしっかりと受け止める場が提供できている。FAVTOWNもそういう若い世代が行動するきっかけや受け皿になる事業にしていきたいと考えています。
藤井さん:私はUターンを前提に就職活動しましたが、その時は自分の目標に沿った地元企業に出合えず、若い世代の流出といった地元の状況も身を持って感じました。なので、出身地ではないもののFAVTOWNで地域に貢献できることに喜びを感じています。
志は同じ。アナザー・ジャパン×FAVTOWNの連携にもチャレンジしたい!
安田:
FAVTOWNは、自治体や事業者、地元の方々と直接つながり、和歌山の現場で事業を展開しておられること、さらに転出者に目を向けられていることが素晴らしいです。
平手:
ありがとうございます。関係人口創出って、堅い言葉ですが、要は地域と人との絆づくりなんですよね。
安田:
コロナ禍もあって、今はオンラインを活用すれば東京はもちろん、どこにいても地域の仕事に携われるので、Uターンだけが選択肢ではないですし、Iターンでもいい。実際、出身地以外の地域の魅力や人にハマってしまって、そこでの活躍を目指すアナザー・ジャパン1期生もいます。
平手:
魅力を感じる地域は出身地に関わらず複数あっていいですよね。一方で、生まれ育った地域であるからこそ意識しなかったまちの特徴や、出てみて初めて気づく魅力もあると思っています。FAVTOWNでは、学校や地域の皆さまにご協力をいただきながら、地元の魅力の発信を行っています。
安田:
アナザー・ジャパンもぜひ紹介してください!FAVTOWNにアナザー・ジャパンのコンテンツも設けていただけるとうれしいです。
平手:
もちろんです。FAVTOWNの会員の高校生が首都圏の大学に入学後、アナザー・ジャパンに選抜されるとうれしいですね。地域の方からは若者と接点が持てることに価値がある、リクルーティングにも活用したいとの声をいただいているので、その後、地域で活躍してくれることにもつながればと思います。
安田:
他にもFAVTOWNとアナザー・ジャパンの連携によっていろいろなことができそうですね。とても楽しみです。
鈴木乃子さん:アナザー・ジャパンでは、商品の魅力だけでなく作り手の思いまで私たちがキャッチアップしていることも特徴です。FAVTOWNの「ふるさと便」と連携できたら、商品セレクトや同梱されるリーフレットの制作などで大いに力を発揮できると思います。
鈴木優雨さん:「ふるさと便」でゆかりの品をプレゼントできるなんて。出身地のFAVTOWNが完成すればぜひ登録したいです。地元が好きな人とつながれることも魅力ではないでしょうか。
人も企業も。「地方」と共に「もうひとつの日本」へ!
平手:
最後に、みなさんの思い描く地域の未来の姿と自らの関わり方や、今後の目標を教えてください。
鈴木優雨:
東京から地元に帰ると、毎日通った通学路やよく遊んだ公園といった何気ない光景に心から安心できます。地元はもちろん、他の地域についても、そんな安心感をアナザー・ジャパンから発信していくことが目標です。「郷土愛」を感じ、ほっとできる場になればうれしいです。
鈴木乃子:
アナザー・ジャパンを通じて「地元が好き」という気持ちを具現化し、そうして発見した魅力をお客様にお届けできることにやりがいを感じました。また、出身地以外のエリアの方とも絆を築けたことから、次に私は福井県で地域創生について学ぶことにしました。東京だけじゃない、全国に魅力的な地域があることを多くの方に知ってほしいです。
藤井:
まずFAVTOWNの全国展開が目標です。私自身としては、地元にいながら今の仕事を続けることもできるので、いつか将来Uターンできれば。今はどんなカタチでも地域とつながれる仕事ができます。誰もが働く場所も内容も平等に選べる日本になればいいですね。
安田:
今、本当に「地方」がおもしろいし、これからますます地域の歴史、文化、人が貴重な資源になっていきます。一極集中を打破しきれていない今の日本を「ナウ・ジャパン」として、今後は47都道府県がもっとそれぞれに魅力を放ち、魅力的な地域にあふれる「アナザー・ジャパン」になっていくことを本プロジェクトで愚直に目指していきます。それは中川政七商店として掲げる「日本の工芸を元気にする!」というビジョンの達成にも繋がっていくと信じています。
平手:
私は、潜在的にある「地元が好き」「なんとなく気になっている」が少しでも行動に変われば、地域にとって大きな力になると思っています。本日、安田さんたちとお話しをさせていただいて、それは確信に変わりました。
アナザー・ジャパンの学生さんのようにすぐに行動に移せる人ばかりではありません。だからこそ、まずは離れてもつながり、地元をもっと好きになってもらう。そして、一緒に地元を応援してもらう、そんなサイクルを地域の方々と共に作っていきたい。FAVTOWNを通じて「地元愛を集めて、一緒に地元を守る」を全国で実現したいです。
そのために、安田さんのような同じ志を持った方々の力もお借りしたいので、よろしくお願いします。本日はありがとうございました。