和歌山市と二人三脚で育てた新サービス「FAVTOWN wakayama」の目指す未来

Service

進学や就職を機に地元を離れる若者と、そのふるさとをつなぐコミュニケーションサービス「FAVTOWN(ファボタウン)」。シナジーマーケティングは和歌山市とタッグを組み、第一号となる「FAVTOWN wakayama(ファボタウン ワカヤマ)」をリリース。2023年2月15日から会員登録がスタートしました。

転出者に着目した、過去に類をみない新サービスのアイデアに興味を持ち、シナジーマーケティングを“戦友”と表現してくれた 和歌山市移住定住戦略課の堀口様とFAVTOWNプロダクトオーナーの平手さんに、協定締結までの苦労と、会員登録がはじまった今、そして期待する未来について、語っていただきました。

(取材・編集/シナジーマーケティング ブランドマネジメントチーム)

プロフィール

堀口広平 / 和歌山市 市長公室 企画政策部 移住定住戦略課
和歌山県和歌山市出身。入庁1年目は下水道建設課で下水道の設計・工事監理を行う技術職に就く。その後、都市計画部の配属になってからは南海和歌山市駅前の再開発などまちづくりに取り組み、2021年4月に企画政策部に新設された移住定住戦略課に異動。関係人口創出モデル実証事業「FAVTOWN wakayama」の立ち上げに尽力する。

平手和徳 / シナジーマーケティング株式会社 ビジネスクリエーション部 部長 FAVTOWNプロダクトオーナー
兵庫県出身。事業構想修士(MPD)。通信系営業会社を経て2010年にシナジーマーケティング入社。クライアント企業へのCRM導入ディレクター、Yahoo!JAPAN との新規事業開発を担当し、2020年にビジネスクリエーション部部長に就任。複数の新規事業プロジェクトのマネジメントを行いながら「FAVTOWN」では最前線に出てサービスを推進中。

FAVTOWNとは

進学や就職をきっかけに、ふるさとを離れてがんばるひとを応援したいという想いで生まれた無料のコミュニケーションサービス。会員同士が気軽につながれるほか、街の情報や地元のショップで使えるクーポンを配信。対象者には無料で特産品や日用品を詰め合わせた新生活応援ギフト「ふるさと便」を届ける。

「アイデアはいいけど・・・」、悩んだ末に辿りついた実証事業という形

―――FAVTOWN プロジェクト発足の経緯を教えてください。

シナジーマーケティング平手:
和歌山市のワークショップに参加した際、県内には大学の数が少ないため、高校卒業後に地元を離れる学生が多いと知ったのがFAVTOWN着想のきっかけです。

和歌山市 堀口様:
和歌山県は2017年まで大学の県外進学率が1位で最も高かったのですが、大学を誘致するなどして現在は6位に改善。それでもまだまだ8割が県外に出てしまうんです。

平手:
シナジーマーケティングはいま、20年以上にわたって培ってきたCRM(※1)の知見を、地域の関係人口(※2)の拡大と育成へ活かすことに注力しています。和歌山市さんのお話を聞いて、地域を離れる若者を止めるのではなく、離れたあとも彼らと地元をつなぐお手伝いができないかと考え始めました。

※1 CRM:企業が顧客との間に親密な信頼関係を育成して相互の利益を向上させることを目指す総合的な経営手法。
※2 関係人口:移住した定住人口でもなく、観光に来た交流人口でもない、地域や地域の人々と多様に関わる人のこと。

また同時期にコロナの外出自粛期間中、帰省ができない出身者に地元の特産品を送る取り組みをしている自治体があることを知りました。送られてきた特産品が地元を思い出すきっかけになっていて、ソーシャルメディア上でも好意的な発信が多く見られました。こうした取り組みをコロナ禍以降も続けられないかと考えたこともきっかけです。

―――まずは実証事業としてスタートした理由はなんでしょうか。

堀口:
コロナ禍でテレワーカーが増え、Uターン移住も増えていたので、私たちは移住定住戦略課として移住相談を受けたり、実際に移住された方を支援したりしていました。ですが、転出者にダイレクトにアプローチするチャネルは持っていなかった。だから平手さんから提案を受けたとき、着眼点がおもしろいと感じた一方で、成果が見えるのは数年後。結果が見えにくいのが懸念材料でした。

それこそ高校を卒業した方が県外に進学し、すぐ地元に戻ってきたとしても最短で4年後。転出先で就職する可能性も高く、転職や子育てのタイミングで帰ってきたとしたら効果がわかるのは10年程度先かもしれない。アイデアはいいけど、実現できる可能性は低いように感じると、正直に不安点をお伝えしました。

平手:
2022年2月に最初のご提案をして、そこからは話し合いを重ねましたね。

堀口:
平手さんとやり取りするうちに辿り着いたのが、シナジーマーケティングがオーナーシップを持つ実証事業という形でした。

通常、市役所で新規事業を立ち上げる際は、まず予算化して、議会承認のうえプロジェクト化することになります。しかし、長い年数続ける必要があるFAVTOWNは、魅力的なアイデアを早期に実現して持続可能なサービス開発ができるように、行政の予算に依存せずプロジェクト化した方が良いのではないかと考えたのです。そうすることで、将来的に他の自治体に広げられる可能性も出てきます。

平手:
FAVTOWNは同じ課題を抱える他の地域にも展開できるサービスです。まず和歌山市さんとともに事業モデルを構築し、今後は他の地域にも広げていけるよう育てていければと考えていました。こうした経緯を踏まえて、和歌山市との共同実証事業というかたちで社内に提案し、2022年10月に連携協定の締結に至りました。

転出者とつながり続けることで、地元・和歌山の魅力を伝えられるサービスに

――― オープンから2週間時点(取材時の2月末)でのFAVTOWN wakayama の会員数は? 

平手:
LINEの友だち登録は500人ぐらいいましたが、そこから本登録に至ったのは400人くらい。もう少し伸びてほしい気持ちはありますが、会員登録開始から2週間、大学受験シーズンが終わってない時期なので、これからもっと増えていくと期待しています。

堀口:
和歌山県外への大学進学者数から、和歌山市から県外の大学へ進学する人が1,000~1,500人くらいと推計しています。初年度はすでに転出されている方なども含めて1,000人くらいの登録を目指したいですね。

(編注:3月末時点でFAVTOWNの会員登録数は1,000人を超えました)

――― 実証期間は2023年6月末まで。その後についてはどうお考えですか。

堀口:
会員数が目標に達したか否かに関わらず7月以降も継続するつもりです。FAVTOWN wakayama の目的は関係人口の創出なので、目標会員数を達成できたら終わりというものではありません。会員とつながることで見えてきた効果を検証して、見つかった運営面での課題に取り組んで、よりよいコミュニケーションを継続していかなければなりません。

会員数はFAVTOWN wakayama のメディアとしての価値を判断する大事な指標のひとつですが、応援パートナーの企業や店舗には、適切なコミュニケーションによって会員が地元とつながり続けていることが何よりの価値だと感じてもらえれば、と思っています。

――― 応援パートナーへの協賛依頼はどのように行っていますか。

平手:
堀口さんと2人でひたすら訪問営業をしています。どうしても県外の企業が営業に伺うと警戒されてしまいがちですが、堀口さんと一緒だと「行政と取り組んでいることなら」と、みなさん好意的に接していただいています。

堀口:
私たち行政としても、多くの県内の企業や店舗にFAVTOWN wakayama に共感してほしいという思いがあるので、平手さんと一緒に訪問し、直接ご意見をうかがっています。

FAVTOWN wakayama をどう活用するかは、お相手次第。お店や商品のアピールに使う方もいれば、採用活動に使えそうだと感じている企業もあります。和歌山の企業は大手の就職・転職サイトでは見つけてもらいにくいけど、和歌山出身者と直接つながっているFAVTOWN wakayama なら興味を持ってもらいやすい。企業の採用担当者は自社の魅力がうまく求職者に伝えきれていないという想いがあるようで、そういった方の課題解決につながるんじゃないかと感じています。

――― これまで苦労を共にした二人の関係性を言葉にすると?

堀口:
戦友といった感じですかね。

平手:
そう言ってもらえたら嬉しいです。私も堀口さんは苦楽をともにしてなんでも相談できる戦友だと思っています。最近は週の半分は堀口さんといっしょにいますから(笑)

堀口:
平手さんには「和歌山市に移住してきたらいいのに」ってずっと誘っていますしね。

和歌山市で成功例をつくり全国各地へ広げたい。2人の共通する想い

――― 本格始動したFAVTOWNの魅力とは?

堀口:
親元を離れて一人暮らしを始めると、地元の学校つながりやご近所つながりとのコミュニケーションが途絶えてしまいがちですよね。それってワクワクと同じくらい不安もあると思うんです。FAVTOWN wakayama に登録して和歌山市出身者同士がつながれば、同窓会の企画も気軽にできるし、「はたちのつどい」の後に会おうよといった約束もできる。まさに人と人がつながるために使っていただけます。

個人的な視点でいうと、サービスの内容もアプリのデザインも、すべてにおいて行政がつくるものと全然ちがう。デザインが斬新で、かつ利用者の使いやすさをよく考えてくれている。そこは非常に楽しんでいます。

平手:
会員登録していただいた方も、応援パートナーになっていただいた企業やお店も、もちろん行政である和歌山市も、「地元が好き」という共通の想いでこのサービスに集まっていただいているのが最大の魅力だと思っています。学生さんと話をしていると、「地元が好き」「何か貢献したい」という発言が多いことに本当に驚きました。そのような想いをなくさず、行動にしていくためのきっかけをFAVTOWN wakayamaが作っていけるといいですね。

初めて会った人が同じ地域出身、同じ学校出身と聞いただけで、一気に距離が縮まったという経験ってありませんか?同郷、同窓が持つ安心感や親近感ってすごくあると思うんです。例えば、FAVTOWN wakayamaを通じて転出先で同郷の先輩とつながる。同じ学校の先輩がやっているお店でアルバイトや同窓会をする。そして、また地元が好きになる。
そんな、サービスになるのが理想です。

――― FAVTOWNの今後に期待することを教えて下さい。

平手:
まずは会員数を増やすために認知度を高めて、将来的には地元を出る=FAVTOWNに会員登録するということが当たり前になって欲しいですね。

堀口:
そうですね。メインターゲットとして「ふるさとを離れる人」と表現していますが、他府県から和歌山市の大学に進学して来る方も登録できるので、和歌山市とつながるツールとして活用して欲しい。そうしたら大学卒業後、そのまま和歌山市で就職する人も増えるかもしれません。

私個人の考えとしては、海南市や有田市、田辺市などの近隣市町へとFAVTOWNが広がっていけばいいなと思っています。たとえば田辺出身の方がUターン移住したいと考えたとき、地元の田辺ではなく都心に出やすい和歌山市に住むかもしれないので、和歌山全域にFAVTOWNが広まっていけば、より便利に活用してもらえるのではないでしょうか。

応援パートナーの方々も、和歌山市限定で事業をされている方は少ないので、そういった目線でも和歌山全域に広げていきたい。さらに他府県にもFAVTOWNが広がったとき「第一号は和歌山市なんだよ」って自慢したいですね。

平手:
FAVTOWNの会員登録先の地域は、1人ひとつでなくても構いません。大学生時代を過ごした場所を“第二の故郷”と感じている方は、生まれ育った地元と大学生の頃過ごした場所、2つの“ふるさと”に登録できるようなことも考えていきたいです。

わたしたちが考えるFAVTOWNの可能性

このインタビューにはFAVTOWNプロジェクトメンバーの小野寺さんと相川さんも同席。それぞれの新しいサービスにかける期待について聞きました。

小野寺さん / プロダクトマネージャー
生まれ育った地元には、何ものにも代えがたい力があります。私自身も地元の岩手を離れたからこそ故郷(ふるさと)を意識するようになり、自己紹介のときに出身地を伝えたり、贈り物をするときに地元のものを選んだりすることが増えました。FAVTOWNはそのような人たちに地元とつながり続けるキッカケを提供するプラットフォームです。FAVTOWNを通して魅力的な地元企業を知って就職したり、ふるさと便で地元の商品を思い出してふるさと納税などを通じて支援したり。和歌山市から始まって全国の自治体に広がるサービスを目指しています。

相川さん / ソーシャルメディア・ユーザーコミュニケーション担当
地元を離れた人が日常的に地元とつながり続けるのはむずかしいもの。生まれ育った街に愛着があったとしても、どうやって情報を得ればいいかわからない方に役立つのがFAVTOWNです。当社と一緒にサービスを提供する和歌山市さんだけではなく、利用者となる学生さんや、サポートしてくださる地元企業の声を聞きながら、みんなが幸せになれるサービスを目指しています。地元を離れる方が「FAVTOWNに登録しておけば安心!」と思ってもらえるようなプラットフォームに成長させていきたいですね。


シナジーマーケティングは 関係・交流人口を創出、育成するさまざまな地域創生事業に取り組んでおり、志賀高原・熊本県南阿蘇村・淡路島など日本各地で、当社のCRMの技術と知見を活用して地域と生活者をつなげるプロジェクトを展開しています。

その中でもFAVTOWNは、シナジーマーケティング自身が運営の主体となり、人と地域がつながるプラットフォームへのチャレンジとして、社内でも大きな期待と注目を集めているプロジェクトのひとつ。

関係・交流人口の育成からはじめる地域創生の取り組みに関心のある企業・自治体の方々、自身の経験やスキルを地域の持続的な成長につなげるお仕事に興味がある方々、ぜひわたしたちとお話をさせていただければうれしいです。

インタビューはシナジーマーケティング和歌山オフィスのあるシェアオフィスStudio RICOで行いました。

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