Synergy!ローンチから17年間で最大のチャレンジ。AWS移行プロジェクト「FROG」を振り返って

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2022年5月、シナジーマーケティングは Synergy!のインフラをオンプレミスからクラウドAWSへの移行プロジェクトを完了しました。システムの基盤を「変える」、Synergy!を新たに「変える」という思いから「FROG」というコードネームがつけられたこのビッグプロジェクト。最前線に立ったCTO馬場さん、リードエンジニア寺岡さんが、プロジェクトを手厚くサポートいただいたAWSのソリューションアーキテクト濵 真一氏を大阪オフィスにお招きしてプロジェクトのきっかけや戦略、進行中の苦労など、双方の思いを語り合っていただきました。

参加メンバー

馬場 彩子
シナジーマーケティング株式会社 
最高技術責任者

寺岡 佑起
シナジーマーケティング株式会社 
リードエンジニア

濵 真一
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社
ソリューションアーキテクト

時は来た!今こそマイグレーションのタイミング

―――Synergy!は2005年のローンチから17年にわたって稼働を続けているシナジーマーケティングの主力サービスです。このたび、ネットワークからサーバ、データベース、メール配信といったお客様に提供しているサービスに加え、監視、ログ収集、バックアップ、CI/CDなど運用に必要な設備まで、すべての環境をオンプレミスからクラウド基盤へ移行した理由は何だったのでしょうか。

馬場:
社会もテクノロジーも17年前とは劇的に進化した今、この先の変化にSynergy!が追従していくためには、柔軟にチャレンジできるプラットフォーム基盤に変えるべきではないか。データセンターの管理、経営面の負荷削減はもちろん、オンプレミスに縛られることなく、未来志向でプロダクトを発展させてしていくためにもクラウド移行を決定しました。

寺岡:
私たちエンジニアの間では、以前からオンプレミス環境における課題感があり、システム保守の効率化やプロダクトの新たな価値を生み出すためにもクラウド基盤への移行が必要と考えていました。17年にも及ぶSynergy!のすべてをマイグレーション(移行)するには時間も労力も相当かかることは承知の上で、現実的にも物理的にも将来的にもやらなくてはいけない時が来たと覚悟を決めました。

―――Synergy! インフラ基盤の移行先として選んだのは、アマゾン ウェブ サービス(AWS)。世界で数百万以上、日本でも数十万を超える顧客が利用しているクラウドコンピューティングサービスです。

寺岡:
エンジニアの世界ではよく「巨人の肩に乗る」といわれるように、すべてが整った環境でこそ新しい価値創出に集中できます。AWSは世界トップのクラウドコンピューティングサービスであり、濵さんをはじめ優秀なソリューションアーキテクトのサポートも受けられます。加えて、シナジーマーケティングでは「FROG」プロジェクトのスタート前からAWSを利用し、知見もあったので、まさに一択でした。

濵:
「FROG」プロジェクトがスタートして間もなく、シナジーマーケティングさんのプラットフォーム担当エンジニアに向けての勉強会も開催しました。私は「システムは生ものである」と表現するのですが、継続的な開発には、つねに新しい技術へのチャレンジが必要です。一方、オンプレミスからクラウドへのマイグレーションによって、従来の物理サーバーのメンテナンスは不要となりますが、培ってきた知見をクラウドで活用できること、それによってシステムも組織も前に進めることをエンジニアの皆さんにお伝えしました。どんな技術者も新しいものが好き、つねに新しいことにチャレンジしたいと思っていますから、前向きに捉えていただけましたね。

馬場:
濵さんはオンプレミスの物理マシンの運用経験もあり、17年間システムをメンテナンスしてきた当社のエンジニアに寄り添ってお話いただいたことで、一人ひとりのマインドをクラウド基盤に移行して未来へ向かう方向にアップデートすることができました。

前代未聞!? お客様のために困難な手段を選択

―――クラウド基盤へのマイグレーションでは「どのような手段で移行するか」が重要です。「FROG」プロジェクトのエンジニアたちが選択したのは、Synergy!のコンテナ化とクラウド基盤への移行を並行して行う、非常に難しい手段でした。


寺岡さんから、Synergy!のレガシーシステムをモダナイゼーションするコンテナ化とAWS移行を並行して行うこと、しかもそのリミットは2年と聞いた瞬間は、正直「止めた方が・・・」と思ってしまいました。

寺岡
私でも濵さんの立場なら他の手段を勧めるかもしれないですね。

――― 「コンテナ化」を伴うクラウド基盤への移行とは、複雑に絡み合った既存のシステムを既存のオンプレミスの環境上で最適化(モダナイゼーション)を行いその稼働を確認した上で、少しずつAWS環境への移行を実行することで、移行中・移行後のリスクを最小化するやり方です。既存のシステムのままAWS環境に引っ越しを行うやり方に比べて、手数も設計や検証の手間も膨大に増える複雑なアプローチを、なぜ選択したのでしょう。

構成が最大限複雑になる移行過渡期の状態

馬場:
最大の理由はお客様にご迷惑をおかけしないためです。コンテナ化 によってAWS 移行を段階的に実施すれば、Synergy!のダウンタイムを最小化でき、万一スムーズに運用できなくなった場合や、想定外の事態が発生した時にも、オンプレミスに切り戻しするといった対応が可能だからです。

寺岡:
いかに移行させるかを「FROG」プロジェクトメンバーでディスカッションし、私も技術の責任者として熟考し、移行を成功させる勝ち筋はこれしかないという結論に至りました。17年にもわたるSynergy!の基盤はとてつもなく大きく、複雑に絡み合っています。それらをそのままAWSに移行することは現実的ではなく、移行後の運用も大変なことになる。それでは、クラウド基盤への移行メリットが得られません。

濵:
大規模なクラウドへの移行では、一般的には、まず基盤をできる限りそのままの形で移行し、そこからシステムの最適化や刷新を行う 「リフト&シフト」が多いので、既存環境でのコンテナ化から始めるというのは勇気ある決断だと思いましたね。もちろん、寺岡さんをはじめエンジニアの皆さんの優れた技術バックグラウンドがあり、数年前に AWS 上に Kubernetes(コンテナ化アプリケーションの運用管理の自動化やスケールを支援するオープンソースソフトウェア)を構築・運用された実績と知見をお持ちであったがゆえの判断ではありますが、何よりも「お客様のために」という強い意志がひしひしと伝わってきました。業務の効率化や経営のスリム化といった企業のメリットではなく、顧客を最優先されるのは他にはないシナジーマーケテイングさんらしさというか、その特異性や斬新性、皆さんの実直な中に秘めた熱い思いに後押しされて、私もチャレンジを決意しました。

寺岡:
濵さんは、モダナイゼーションをとくに得意されているエンジニアでもあるので、フォローいただけることも心強かったです。

さまざまな難関をチーム一丸となって突破

―――「お客様のために」というシナジーマーケティングの理念を成就させるべく、困難ではあるものの、最善・最適な手段をとった「FROG」プロジェクトと濵氏。システムの最適化(モダナイゼーション)と段階的な移行を行う戦略を立て、工程を進めていきます。

馬場:
プロジェクトの開始から移行完了まで、大きく4段階に分けて、タスクを細かく分解。まずオンプレミスでのKubernetes 構築に19カ月間を費やしました。その後、データベースは50%ずつ移行。トラフィック移行は8カ月かけて、じっくり行っていきました。

寺岡:
とくにメールシステムのトラフィック移行は最大の山場だったかと。Synergy!はCRMシステムという特性上、月5億通ものメールを配信しています。メール配信はシステムを完璧に構築していたとしても、IPアドレスやドメインといったインターネットそのもののことが絡んできて、思いも寄らない事態が発生する可能性もあります。なので、リリースのギリギリまで、オンプレミスのデータセンターでの対応が発生することを想定、体制も整えていました。

濵:
メール配信システムの移行についてはドキドキしましたね。私たちAWS側でも検証を行い、寺岡さんたちと議論を繰り返しました。実際にメールが配信される瞬間は、サポートをするソリューションアーキテクトでありながら、もう祈るような気持ちで・・・。

馬場:
みんなの祈りが通じ無事成功しましたが、私としては仮に切り戻しが発生したとしても、切り戻し自体は決して失敗ではないと考えていました。「想定外の事態は想定内」なので、柔軟に対応すればいい。17年にも及ぶSynergy!のレガシーシステムをそう簡単に移行できるわけがありません。そのような心づもりで、「FROG」プロジェクトのメンバーが、どんな困難に直面しても前向きに挑んでくれたからこそ、難所であったメール配信システムの移行をはじめ、大きな問題は発生しませんでした。

寺岡:
17カ月間、発生しそうな課題の抽出と検証を繰り返し、濵さんのサポートも受けながらAWSでの機能テストも積み重ねてきたので。

濵:
シナジーマーケティングさんのお客様に対する思いを私たちAWSも共有できたことは、大きなプラスになりました。企業の枠組みを超え、一つひとつの課題に挑むことができたことで、困難を乗り越えられたと思います。

積極的なチャレンジとオーナーシップが結実

―――「今までの人生でもっとも頑張った」というエンジニアもいたほど、長く、険しい道のりでもあった「FROG」プロジェクト。それを濱さんも「通常ではありえない」と言う、わずか2年で成し遂げた要因を3人が振り返りました。

寺岡:
エンジニアというのは、自らのスキルを活かして、いかに最適なものを作るかが楽しい職種でもあるので、さまざまな困難を前向きに捉え、積極的に解決しようとしました。一人ひとりが必死に設計して、こうやったら実現できるのでは、ここがネックになるのではと必死に洗い出して、濵さんも含め、みんなで話し合って・・・。それが2年以上モチベーションを高く維持し、プロジェクトに取り組めたと実感しています。

馬場:
シナジーマーケテイングには、フロントエンド、バックエンドの各分野のスペシャリストが集結しています。全員がAWS移行という大きな目標に向いつつ、一人ひとりが自らの専門性で任務を全うしたことが、確実に、しかも短期間での移行を成し得た要因であると自信を持って言えますね。

濵:
「FROG」プロジェクトのエンジニアの皆さんのサポートをさせていただくにあたって、ソリューションアーキテクトとして苦労したことはなかったですね。これほど大変なプロジェクトにも、どんなに難しい課題にも、誰もが強いオーナーシップを持って取り組まれている。ミーティングや私への問い合わせに関しても、自分たちがプロダクトオーナーであり、Synergy!のことは誰よりも詳しいのだから、すべてAWS任せにせず、個々が熟考し、皆さんで十分に議論、検討された上で臨んでおられました。こういったチームであったから、今回のプロジェクトを滞りなく成功させられたと思います。

まだまだ進化するSynergy! とシナジーマーケテイング

―――前代未聞のクラウド基盤への移行をやり遂げたSynergy!の「FROG」プロジェクトは、AWSでも高く評価いただき、6月に開催されたAWS を学ぶ日本最大のイベント「AWS Summit Online 」では50ある事例セッションのひとつとしてオンライン講演を行い、馬場さんと寺岡さんが登壇しました。

AWS Summit 2022に登壇しました – TECHSCORE BLOG
https://blog.techscore.com/entry/2022/07/05/123000

濵:
「FROG」プロジェクトが始まる3年前、寺岡さんと「このプロジェクトで AWS Summit Online に登壇しましょう」と約束していたのですが、プロジェクトの大成功をもって約束を果たしてくれて、うれしかったですね。これほど長く歴史のあるサービスを自社でモダナイゼーションし、短期間でクラウド移行を成功した実績は素晴らしく、AWSユーザーだけでなく業界的にも評価されると思います。シナジーマーケティングさんは高い技術力、人材力、結束力をお持ちです。これを外に向かって、どんどん発信いただければ、業界や社会にいいインパクトを与えられるのではないでしょうか。

寺岡:
今回、我々が行ったのはクラウド基盤への移行。まず新しい箱を作って新しいものを入れた状態にすぎないので、ここからしっかり運用し、高品質のサービス、セキュリティをお客様に提供していかなければ意味がありません。オンプレミスにかかる負担を削減できた分、開発にリソースをつぎ込み、新たな基盤で新たな価値も創出していきます。

濵:
AWSではクラウドだけでなく、データサイエンスをはじめ多様なサービスを展開しています。例えば、新しいマーケティングサービス開発の指標をデータ解析で導き出す、機械学習で新たなAPIを提供するなど、新たなチャレンジの土台としてAWSをご利用いただければうれしく、今後も並走しながらサポートさせていただきます。

馬場:
2年以上にわたる「FROG」プロジェクトをやり遂げたことは、AWSさんの評価を含め、私たちの大きな自信となりました。シナジーマーケティングの行動指針 A Sense of Value の中では「Challenge」と「Innovation」を重要な価値観として掲げています。この実績と自信があれば、Synergy!はもちろん、他のプロダクトでも同じ振り幅で次のミッションを迅速かつ確実に成功できるでしょう。

(取材/編集:経営推進部 ブランドマネジメントチーム)

ご協力

アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社

Amazonがショッピングサイトの運営をするなか、社内のビジネス課題を解決するために生まれたアマゾン ウェブ サービス (AWS)。 サーバやストレージ、DB等、システムインフラの大幅なコスト削減や柔軟な増減を可能とし、世界中に革新をもたらしました。日本においては2011年に東京リージョンを、2021年に大阪リージョンを開設。短期間で急成長を遂げ、すでに先進的な企業から大企業まで、幅広い企業様にご活用いただいています。

AWS Summit 2022 登壇動画とスライド

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