創業400年を超える老舗企業の新たな挑戦|竹中工務店様のBtoCアプローチに向けたデジタルマーケティング戦略

日本の市場は少子高齢化やグローバル化、デジタル化に加え、社会インフラのあり方や人々の働き方、ニーズにも大きな変化が生まれています。この変化の波は、社会インフラを支える建設業界にも影響を与え、次世代を担う人材との接点創出や事業成長のための認知度向上などにおいて、これまでの枠組みにとらわれない、革新的なアプローチが不可欠になっています。
今回ご紹介する竹中工務店様は、この変化を好機と捉え、BtoB中心だったマーケティング戦略をBtoC領域に拡大することを決断されました。その新たな挑戦の一環として、一般消費者に対して建設業界の魅力を広く発信することを目的とした体験型イベント「たてものめがね まちめがね展」を2025年2月に大阪で開催。シナジーマーケティング(以下、当社)は、創業以来25年にわたってお客様のデジタルマーケティングを支援してきた知見を活かし、このイベントの集客や認知度向上に関する戦略立案および施策の実施をご支援しました。取り組みによってもたらされた変化について、竹中工務店様と当社のプロジェクトメンバーに話を聞きました。
■たてものめがね まちめがね展 ~宇宙から虫まで、縮尺で考える建築の見方~
2025年2月8日から24日まで大阪・うめきたの「VS.(ヴイエス)」で開催された、竹中工務店が初めて大規模かつ一般向けに実施した体験型イベント。2週間の開催期間中に一般の方や就職活動を控えた学生など約26,000人が来場した。同社の若手社員を中心とした展示企画チームを結成し、「従業員が自ら考え、つくり出す」というプロセスを踏んだ、新しい形の企業展として注目されている。
https://www.takenaka.co.jp/vs-exh/
対談メンバー

田附 岳夫 氏
株式会社竹中工務店
経営企画室 広報部長

上山 藍
シナジーマーケティング株式会社
クラウド事業部
第1デジタルマーケティンググループ コンサルタント/ディレクター

長島 潤也
シナジーマーケティング株式会社
クラウド事業部
第6アカウントソリューショングループ マネージャー
※部署名・役職は取材当時(2025年5月)のものです
■竹中工務店

1610年(慶長15年)創業と400年の歴史を誇る老舗建設会社として、ドーム、スタジアム、空港、超高層建築、大規模再開発などランドマークとなる建築物を手がけ、日本の産業化や社会発展の一翼を担ってきた。近年は環境配慮と働き方改革に注力し、持続可能な建設業界の実現を目指している。
https://www.takenaka.co.jp
建設業界における人材採用・認知度向上のキーワードは「BtoC」「デジタル施策」
―― 2025年2月に、竹中工務店様として初の一般消費者向け体験型イベント「たてものめがね まちめがね展」を開催されましたが、「BtoCへの情報発信に注力する」と決断された背景をお聞かせください。
竹中工務店 田附:
建設業界は、構造的な特性から一般消費者からの認知度が低下している現状があります。マスコミの調査や学生向けのアンケート調査でも、弊社を含む大手建設会社5社の認知度は下降し続けています。その背景には、弊社は大規模商業施設や超高層建築、スタジアム、空港など、多岐にわたる建造物の建築を手掛けていますが、実際にそれらを利用する方々の関心は、建物の「作り手」よりも「どのようなテナントがあり、そこでどんな体験ができるか」にフォーカスされがちである、という特性があります。加えて、竣工後の建物は施主様の所有物になるので、私たちが手がけたと発信することが難しいといった理由もあります。
認知度の低下は、特に人材採用において大きな課題となっています。近年、業界全体として人手不足が深刻化しているため、就職を控える若年層やその親世代、さらには将来の担い手となる子供世代に対して、建設業界、ひいては弊社の魅力を伝え、アピールしていく必要に迫られています。こうしたことから、BtoCの情報発信を強化し、建設業界の魅力を多角的に伝えていくことで、この課題を解決したいと考えました。

―― 課題解決の一環として、展示を企画されたのですね。
竹中工務店 田附:
はい。建設業界の認知度向上のためには、これまでのBtoB向けの実績や技術力をアピールする発信ではなく、「業界そのものに興味を持ってもらうためのアプローチ」が必要だと感じていました。ちょうど2024年9月に大阪・梅田駅前に新たな文化施設「VS.(ヴイエス)」のオープンを控えていたこともあり、一般消費者向けの体験型イベントを開催することとなりました。これには、「今までとは違う挑戦をしていく」というトップの判断も大きく影響しています。
シナジーマーケティング 長島:
展示会の開催にあわせて、「TAKENAKA AS AN ARTIST」という新たな取り組みもされていました。
竹中工務店 田附:
一番大きな挑戦です。「TAKENAKA AS AN ARTIST」というコンセプトのもとに、弊社の若手メンバーが中心となってイベントの企画チームを結成し、自分たちだけで主体的に作り上げていく、といった試みです。今までは外部のパートナー企業様にご協力いただくことも多かったのですが、今回は弊社のみで展示の企画から実施までをすべて行いました。その結果、「従業員が自ら考え、つくり出す」というプロセスを踏んだ、まったく新しいBtoCの展示となりました。
プロジェクト全体の企画は開発計画本部、技術本部、設計本部、設計部、エンジニアリング本部、まちづくり戦略室などが中心となり、私たち広報部は情報発信を担当することになりました。BtoB向けの展示会やイベントのノウハウは豊富にありますが、本格的なBtoCイベントは初めての試みのため、特に集客面に大きな不安がありました。短期間でターゲット層に情報を届け、来場意欲を喚起させるためには、専門的な知識に基づいた戦略と施策が不可欠です。しかし、残念ながら社内にそのノウハウを持つメンバーがいませんでした。
そこで、10年以上にわたって、メール配信に活用している「Synergy!」の運用や配信コンテンツの制作、BtoB向け展示会の集客支援などのデジタルマーケティング領域で幅広く協力いただいているシナジーマーケティングさんにご相談することにしました。デジタル領域に精通したプロフェッショナルとして、弊社だけでは実行できない効果的な戦略および施策の提案をしてくださるだろう、という期待がありました。
シナジーマーケティング 長島:
当社は、戦略立案から現状整理、施策の企画・設計・実行、効果測定までを一気通貫で手掛けることを強みとしていますので、そこに注目いただき、大変光栄です。今回のプロジェクトでは、イベント開催の約1年前という早い段階からご支援させていただきました。
来場者数達成だけでなく、一般消費者の潜在ニーズの発見にもつながった
シナジーマーケティング 上山:
今回の展示では、メインターゲットを「将来の担い手となる小・中・高校生を含むファミリー層」、サブターゲットを「リクルートの対象となる大学生・大学院生およびその親世代」にしたいとのご要望をいただいていました。この2つのターゲット層に響くように、集客および認知度向上に向けた戦略立案と施策の実施を行いました。
特に注力したのは、SNSやWebを活用した拡散です。関西圏でファミリー向けのお出かけ情報を発信するインフルエンサーや、建築関連の学生フォロワーが多いインフルエンサーなどに協力していただきました。並行して、Web広告やLINE広告も積極的に活用しています。これらのプラットフォームはターゲット層との高い親和性からリーチ力が強く、期間内での施策の実行が可能であり、コストパフォーマンスも良い集客手段だったため、選択しました。
SNSやWeb広告、LINE広告からの流入先となるイベントの公式ホームページも当社で制作しています。これらの施策を組み合わせることで、「ターゲット層の間で、展示のことを知らない人はいない」という状態を目指し、徹底的な情報拡散を図りました。
竹中工務店 田附:
今回は、従来のBtoBのイベントとは異なり、開催期間が17日程度と比較的短いことから、開催期間中にリアル広告やテレビなどのメディア露出で徐々に認知を広げていくといった従来の手法では、集客が間に合わない状況でした。加えて、初めてのBtoCイベントになるため、必要な費用や想定来場者数の見通しを立てにくく、さらに集客に投入できる予算が限られていました。
このような厳しい状況でしたが、来場者数の目標として設定した1万人に対し、最終的に2.6万人を超える方々に来場いただくことができました。デジタル施策と並行して、弊社側でも関西地域のステークホルダーとの連携を積極的に図り、集客に努めてはいましたが、正直なところ、この目標達成は難しいのではないかと考えていました。上山さんや長島さんのお力添えのおかげで大幅達成となり、とてもうれしく思います。SNSやデジタル広告の拡散力を最大限に活用し、短期間での認知拡大を実現できた「デジタル集中戦略」の大きな成果だと考えています。
シナジーマーケティング 上山:
大阪で開催するリアルイベントということもあり、関西のファミリー層や学生に絞ったデジタル広告を出稿することで、コストパフォーマンスの良いイベント告知ができました。

竹中工務店 田附:
施策によって展示の認知度が着実に上がっていることは、私たちも肌で感じていました。集客の一環として建築関連の学科に在籍する学生の誘致を強化するべく、ある大学の研究室を訪ね、告知の協力を依頼したことがありました。その際に、先方から「その展示、うちの学生は全員知っています。話題になっていますよ」といったうれしい言葉をいただいたんです。これは、SNSやデジタル広告がターゲットである学生個人のデジタルデバイスにしっかりと届き、認知されたという証です。この出来事で、確かな手応えを感じました。
―― 竹中工務店様は、これまでSNSやデジタル広告、インフルエンサーを活用した集客は実施されていなかったと伺っています。実施にあたって、社内で懸念の声などは聞かれましたか。
竹中工務店 田附:
大きな懸念の声や反対の声は聞かれませんでした。「開催期間が17日間と短いため、新聞・雑誌などのリアル広告よりも拡散力や費用対効果の高いデジタルを活用した集客が不可欠である」といった説明をしたのですが、拡散力や費用対効果の高さが決め手となり、スムーズに合意を得られました。実際に効果が高かったこともあり、今回のイベントのように立地が良く、入場無料のケースでは、「従来のリアル広告よりも、ターゲットを絞った情報発信ができるデジタル広告の優位性が高い」と社内で広く認識されるに至りました。
一方で、インフルエンサーの起用に関しては、制作チームから「竹中工務店のブランドイメージにふさわしい人物を選びたい」との意見が出ました。
シナジーマーケティング 上山:
「竹中工務店様のブランドイメージにあっていること」「展示テーマとの親和性があること」「高い発信力があり、コンバージョンが期待できること」「フォロワーの属性がターゲット層と近しいこと」などの条件が揃っている必要がありました。そのため、まずは弊社でインフルエンサー候補の包括的なリストアップを実施し、そのリストをもとに貴社と弊社の共同で精査を行って、依頼するインフルエンサーを決めていきました。
竹中工務店 田附:
インフルエンサーの件もそうですが、シナジーマーケティングさんは弊社の社風や状況に合わせて臨機応変に対応していただけるので、大変心強く感じています。実は、展示の詳細が固まって、外部に発信できるようになったのは開催初日のわずか3週間前という、かなり差し迫ったタイミングだったんです。そんな状況にも関わらず、上山さんと長島さんは、GOが出た瞬間にイベントの公式ホームページの公開ができるように準備を整えてくださっていましたよね。あまりにもタイムラグなくスムーズに公開いただいたので、驚きました。
シナジーマーケティング 長島:
外部とのさまざまな折衝で情報解禁のタイミングがずれるのはよくあることですので、先んじてホームページのデザインテンプレート(画像やテキストを差し替えるだけで公開できる、完成形に近いホームページのひな形)を用意しておき、あとは情報を流し込むだけで即日公開できるように準備を進めていました。
シナジーマーケティング 上山:
情報解禁のタイミングを細かく教えていただいていたので、先回りの対応が可能になりました。加えて、広報部の皆さまだけでなく、実際に展示を制作されている設計部や開発計画本部の皆さまとも直接やり取りができるように調整してくださったので、公式ホームページに使う素材のやり取りや撮影なども非常にスムーズに進められました。
シナジーマーケティング 長島:
お心遣いいただいたおかげで密な情報交換が可能になり、私たちが展示の詳細な内容を把握したのと同じタイミングで、ロスタイムなく外部への情報発信を開始することができました。
▶︎具体的な集客戦略の立案、施策の企画・実行については、事例記事をご覧ください。

―― 今回の取り組みでは多くの挑戦をされていますが、今振り返ってみて、どのような感想をお持ちでしょうか。
竹中工務店 田附:
今回のイベントでは、来場者目標を大きく上回っての達成となっただけでなく、高い満足度を得ることができました。大変喜ばしく思っています。
デジタルマーケティング戦略、なかでもSNSやWebなどのデジタル広告の活用は大きな効果がありました。 事前の来場者予約が伸び悩んでいた状況のなかで、1月中旬にSNS広告を開始したところ、飛躍的に増加しました。開催初日には目標の約半数、数日後には目標を超える予約数を獲得することができました。入場無料イベントなので実際の来場率が低くなる懸念もありましたが、結果として非常に高い来場率となり、最終的に来場者目標に対して約260%の着地となりました。 この早期の目標達成は、イベントの運営に携わったメンバーの士気を大きく高める要因にもなりました。
また、来場者アンケートや会場でのヒアリングから、展示内容が大変好評だと判明し、「『たてものづくり・まちづくり』の楽しさを一般消費者に伝える」という当初の目的は十分に達成できたと考えています。なかでも体験型のコンテンツが好評で、これはメインターゲットである小・中・高校生を含むファミリー層に効果的に訴求できたという証左になります。
弊社の技術や先進的な取り組みに強い興味を示される来場者の方も多く、これまで顕在化していなかったBtoC領域における新たなニーズを発見する機会にもなりました。建築関連ではない学生や若年層の女性など、これまで弊社との接点が少なかった一般消費者に幅広くリーチでき、かつ、実際に多くの方に来場いただけたことは、「新たな顧客接点の創出」という点で極めて重要な成果だと考えています。
デジタル時代における「トラディショナル企業の”マーケティングモデルケース”」に
―― 今回の成果を受けて、貴社における今後のマーケティング戦略はどのように変化すると予想されますか。
竹中工務店 田附:
今後は、従来のリアル広告よりもSNSやWeb、YouTubeなどのデジタル広告がマーケティングの主軸になっていくのではないでしょうか。今回の取り組みで一定の成果を上げられたこともあり、今年の5月に出展した展覧会でも早速インフルエンサーを活用した情報発信を行いました。集客および認知度向上施策における動画コンテンツの有用性を改めて強く感じています。
シナジーマーケティング 上山:
動画広告施策は、業界を問わずデジタルマーケティングの主流になっています。今回のインフルエンサーを起用した広告でも短尺の動画を活用しており、実際に高い効果が得られています。視聴ハードルが低く、SNSでの拡散性も高いため、これまで接点の少なかった層にも幅広く企業の魅力を届けることができるというメリットがあります。
竹中工務店 田附:
弊社も複数の動画を公開しているのですが、今回の取り組みでそれらの視聴回数を増やすためのノウハウが得られたことも大きな収穫です。今までは「ある程度の費用をかけて、見ごたえのある動画を作る」という方針でしたが、昨今の需要や今回の成果を踏まえて、より短く、インパクトのある30秒程度の動画を増やしていく方向も検討する価値があるのではないかと感じています。
シナジーマーケティング 長島:
そうですね。建設業界でも、これまで伝えきれなかった建物の裏側にあるものづくりの情熱や技術、建造物完成後の社会貢献性などを動画にして発信することで、ステークホルダーだけでなく、一般消費者への新たなアプローチも可能になります。
また、冒頭に「竣工後の建物は施主様の所有物になるので、私たちが手がけたと発信することが難しい」とのお話がありましたが、それに対する打ち手として「手がけた建物の景観や建築工程を映像に収めた短い動画集を作成する」といったアプローチも考えられるのではないでしょうか。

竹中工務店 田附:
いいかもしれませんね。今回の取り組みが、建設業界のみならずトラディショナルな企業におけるデジタルマーケティング活動のモデルケースの一つになればうれしく思います。今回の経験を活かして、今後は竹中工務店としての企業の認知度向上に向けて、新しいチャレンジをしていきたいと考えています。引き続き、シナジーマーケティングさんにもご支援いただけると幸いです。
シナジーマーケティング 上山:
ありがたいお言葉です。貴社の理想実現に向けたパートナーとして、引き続き貢献してまいります。竹中工務店様は歴史や実績、人材などの多方面において、素晴らしい強みをお持ちです。それらの強みとデジタルマーケティングの特性を組み合わせ、最大限に活かすことで、中長期的なブランディング活動をご支援させていただけましたら幸いです。
シナジーマーケティング 長島:
今回は、貴社の新たな挑戦となるBtoC領域のご支援をさせていただけたことを大変光栄に思っています。昨今の市場の飽和やニーズの多様化を背景に、業界を問わず、デジタルマーケティングを活用した集客、認知向上、人材採用が主流になりつつあります。トラディショナルな業界においても、こうした動きは避けられません。今後も、建設業界のデジタル化の最前線にいらっしゃる竹中工務店様とともにチャレンジを続け、建設業界全体の成長に少しでも貢献できるように努めてまいります。
(取材/編集:経営推進部 ブランドマネジメントチーム)