生成AIに“答え”を求めない。「わかったつもり」を脱却し、顧客に選ばれる商品を生み出す「洞察力」|creative field 2025 イベントレポート

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2025年10月27日、株式会社シナジーマーケティング(以下、当社)は、株式会社アイディーエイ様と共同で、「クリエイティブフィールド2025 〜共創の成果〜」を東京国際フォーラムにて開催いたしました。

本レポートでは、女性向けインナーウェアEC事業などを展開する株式会社シーオーメディカルの沢井氏と、生成AIを活用した生活シミュレーションシステム「DAYS GRAPHY(デイズグラフィ)」のプロダクトオーナーである当社阪口、モデレーターの山田氏によるセッションの模様をお届けします。主に、生成AIによる「顧客志向のカルチャー醸成に向けた取り組み」と「既存商品のカラー改良による新価値創出の事例」についてお伝えします。

本セッションのポイント

  • インタビュー調査のジレンマを解消
    高コストになりがちな本格的なインタビュー調査を生成AIによる仮想顧客像との対話で体験することで、顧客理解の重要性を体感する機会を提供。社内カルチャーの変革を促し、費用対効果の不明瞭さによる実施障壁を越える。
  • 画期的なインサイトの発見
    商品の販売実績ではなく、「商品を選ばない理由」に着目。生成AIとの対話から「選びたいけれど、選べない商品」という深層ニーズを発見し、商品開発につなげた。
  • AI時代の競争優位性
    AIが生成した情報と普通の人が集める情報に差はない。その情報から他者が気づかない「独自の視点(洞察)」を見つけ出す「洞察力」が、今後のサービス・商品の改良や開発の成否、企業成長の鍵となる。

■DAYS GRAPHYとは
顧客の日常や生活状況を深く理解することで顧客のまだ満たされていないニーズを捉え、商品企画やマーケティング施策のアイデアを生み出しやすくする「生活シミュレーションシステム」。企画業務で必要なインサイトリサーチを効率的に行うことができる。 顧客からの口コミや商品レビューデータを入れるだけでAIが顧客像を生成してくれるため、難しい作業や詳細な顧客情報は必要とせず、すぐに始められる。
https://www.synergy-marketing.co.jp/daysgraphy/

登壇者

沢井 和也 氏
株式会社シーオーメディカルカスタマー本部

2019年に株式会社シーオーメディカル入社。女性向けインナーウェアブランド”Angellir”にてCRMを中心とした既存顧客向けマーケティングを担当後、マネージャーとしてマーケティング全般を統括。その後、CX領域の拡充を目的にカスタマー本部へ異動し、ユーザー・リサーチをはじめ、CX向上施策に幅広く取り組む。

阪口 奨
シナジーマーケティング株式会社クラウド事業部 / サービスデザイングループ マネージャー

2008年にフィールドセールスとして入社。デジタルコミュニケーションの設計やCRMの企画提案歴は15年以上。集客〜引き上げ〜リピーター育成までの一連の領域において100社以上の企業とプロジェクトをご一緒し、西日本の統括を務める。一貫して「顧客理解」を大切にしてきたなかで、その効果を多くの企業が感じられるようにしたいと思い、2022年から新サービスの構想をはじめる。現在は顧客理解を突き詰めるためのリサーチャーとして、生成AIを活用した新サービスのプロダクトマネジメントに従事。

モデレーター

山田 祥 氏
株式会社アイディーエイ代表取締役

1995年新卒で株式会社アイディーエイに入社し、岡山を中心に営業活動を行う。2008年に同社取締役に就任、2010年に代表取締役に就任。以降、CI発表・理念ビジョンの整理、働き方改革、自社インナーブランディングなどに取り組む。2022年度のブランディング事例コンテストでは「オルバヘルスケアホールディングス(HD)のブランディング」で優秀賞を受賞。

※部署名・役職は取材当時(2025年10月)のものです

顧客理解の「壁」を打ち破れ! シーオーメディカル様が直面した課題

セッションの冒頭では、モデレーターの山田氏より、2025年7月〜9月にビジネスマン921名を対象に実施した「生成AIの利用状況に関するアンケート」の結果として、「業務で生成AIを使用している割合は31.1%」「生成AIを使用している人のうち、64.2%が業務効率化に利用」などの情報が共有されました。

続いて、話題はシーオーメディカル様の生成AIの活用状況に移ります。同社は、社長の強い意思表明で、70名ほどの社員のほぼ全員が生成AIを業務に活用しています。活用用途は、主に文章作成・校正、会議の議事録の自動化・要約、EC事業の顧客データ・注文データの分析などです。

沢井氏は、次のステップとして、生成AIの「ないものを新たに作り出せる力」を引き出す挑戦をされています。なかでも、商品開発の根幹となる「顧客理解の深化(顧客のことをより深く理解すること)」に注力すべく、「DAYS GRAPHY」を導入されました。その背景には、顧客理解に関する「費用対効果」と「社内の認識(カルチャー)」の障壁がありました。

シーオーメディカル様では生成AIを活用する以前は、顧客理解を進めるために、お客様の声(ハガキ)やネット上での口コミ・レビュー、Webアンケート、コールセンターによる限定的なヒアリングなどを実施し、一定の成果を上げられていました。その結果、表面的な理解からさらに一歩踏み込み、「お客様の言葉の裏側にある、お客様自身も気づいていない潜在ニーズ」を探りたいという要望が社内で高まり、本格的なインタビュー調査を検討するタイミングで、費用対効果のジレンマに突き当たります。

本格的なインタビュー調査をするにはまとまった時間と費用が必要な一方で、即効性のある効果につながりにくい特性があります。そこで、顧客理解の重要性に気づいてもらうために、沢井氏は社内で啓蒙活動やワークショップを展開されましたが、知識は伝えられても必要性や良さを体感できるまでには至らず、難しい状況でした。

「費用対効果が不透明で予算・リソースがつかない。予算・リソースがつかず実施ができないから、顧客理解の重要性を体感として得ることができない」という悪循環になってしまっていたと沢井氏は振り返ります。

そんななか、当社が提供する生成AIを活用した生活シミュレーションシステム「DAYS GRAPHY」に出会い、「生成AIを活用することで、顧客理解を深める活動を低コストで体験できる。重要性を社内に浸透させ、それがカルチャーとして根付けば、本格的なインタビュー調査の実施ハードルが下がるのでは」と期待を寄せられました。

なぜ「DAYS GRAPHY」なのか? 従来のAIを越える「考える余白」を重視する設計

商品開発への生成AIの活用について、沢井氏は以前から、「直接的に生成AIにアイデアを出させると、ありきたりな回答に陥りがち。その原因は、『人間が気づいていない視点は、そもそも入力できない』点にあるのでは」と考えておられました。

その点、DAYS GRAPHYは、「生成AIが”答え”を出すのではなく、DAYS GRAPHYが生成した仮想顧客像との対話を通じて、ユーザー自身が商品開発のヒントや新しい視点を掴む『考える余白』が生まれる点が優れている」と評価。この余白こそが、人がインサイトを考えるきっかけになると語られました。

DAYS GRAPHYを活用することで誰でも手軽に「顧客理解を深める体験」ができるようになり、顧客理解の重要性が徐々に社内へと浸透。なんらかの企画をする際に、「煮詰まりそうになったタイミングで、顧客に話を聞きたい」という声が社内から自発的に発生する状況へと変化したそうです。
当社の阪口も、「DAYS GRAPHYの設計で最もこだわったのは、生成AIに『”答え”を出させない』こと。インターネット検索に慣れ親しんできたことで、生成AIにも”答え”とのマッチングを期待してしまいがちだが、生成AIの本質は『ユーザーが、”答え”を創出するためのシミュレーション』」と語り、同意します。

続けて沢井氏は、「”答え”を提示する代わりに、顧客が『どのような生活をしているか』『どのような状況で、どのような商品を選ぶのか』といった要素を可視化している。リアルのユーザーインタビューでも、お客様の会話の文脈や感情などの情報から背景を読み取り、そこから課題を想像する。それを仮想で再現している。DAYS GRAPHYの利用者に『こんな生活をしている消費者がいるのか』という驚きと気づきを提供し、『この人に新しい価値を届けるには、どのようなアプローチが適切か』といった新たな視点や発想を促すことを重視している」と語られました。

DAYS GRAPHYのデモ画面

【商品改良への活用事例】生成AIとの対話で「選びたいけど、選べないカラー」を発見!新たな視点を獲得

DAYS GRAPHYの特性が活かされたのが、同社アパレルブランドの主力商品であるナイトブラジャー「ふんわりルームブラ」のカラーバリエーションリニューアルの事例です。この商品は着心地やデザインだけでなく、カラーが重要な購買ポイントになります。

同社はこれまで、カラーバリエーション展開を刷新するにあたって、「売上が高い=人気カラー」「売上が低い=不人気カラー」という販売実績を軸にした指標を設け、カラーの継続や廃版を決定していました。

今回は、DAYS GRAPHYを活用し、従来の顧客アンケートでは収集しにくい、カラー選定における顧客の深層心理を探る試みをされました。具体的には、「そのカラーを選んだ理由」に加えて、「最初に購入したときの状況」や「カラーを選ぶ際、なにを重視するか」などについて、DAYS GRAPHYが生成した仮想顧客像と対話しました。その結果、「顧客は『選んだ理由』と同時に、『選ばない(避ける)理由』も持っている」という重要な事実に気づいたと沢井氏は語られました。

このインサイトに基づき、実際の顧客にアンケート調査を実施したところ、従来の分析では見過ごされていた「選びたいけれど、選べないカラー」の存在が明らかになりました。

■選びたいけど、選べないカラー(一例)
ベージュカラーは「透けにくい」という機能的安心感から選びたいが、一方で「年配向けに見え、若い世代が着るには抵抗がある色」という面もあり、選びにくい。

「この発見は、同商品における新色開発戦略を根本から変えた」と沢井氏は語られます。新たな戦略は、「選びたい理由を残し、選べない理由だけを取り除く」こと。

具体的には、ベージュの「透けにくい」という機能的価値は維持しつつ、若い層が抵抗なく手に取れるように「可愛らしさ」を意識したトーンの新カラーを開発。結果、発売直後から好調な販売実績を記録し、顧客からも高い評価を得ることができたそうです。

沢井氏は、「今回の挑戦で、特によかった点は2つ。1つ目は、時間とコストのかかる本格的なインタビュー調査の効果を最大化できた点。いきなり顧客アンケートを実施していたら、『選びたいけれど、選べないカラーがある』ことに気づくのにかなりの時間がかかったと思う。初期段階のインサイトの探索に生成AIを活用したことで、時間やコストを大幅に短縮できた。
2つ目は、単に一つのヒットカラーを生み出しただけでなく、開発チーム全体の思考が『販売実績軸』から『顧客理解軸』へと変化した点」と振り返りました。

次の壁は、専門家依存からの脱却と自分事化

顧客理解の重要性が社内に浸透してきた一方で、沢井氏は新たな課題が生まれたと語ります。

沢井氏へのリサーチ依頼は増えましたが、「リサーチは専門部署がやるもの」という従来の分業意識がまだ強く残っており、「まずは自分たちでDAYS GRAPHYを活用してリサーチをしてみよう」という考え(主体性)が根付いていない状況にあるのだそう。

沢井氏は、「生成AIを活用する最大の利点は、『失敗のコストがゼロに近い』こと。人間を相手に行う顧客インタビューでは、不適切な質問や配慮に欠ける対応をしてしまうと一大事だが、生成AIによる仮想顧客像との対話は何度失敗しても問題ない。開発担当者や企画担当者が仮想顧客像を相手にインタビューの練習や仮説検証を繰り返すことができるのは、モデレータースキルを磨くうえで大変有効」と力説。

この課題を踏まえ、次のステップとして、「顧客を理解するためのリサーチを『数日から数か月かけて行う、専門知識が必要かつ大掛かりなタスク』ではなく、『誰もが手がけられる、日常業務の一部』という認識に変えたい」と展望を語られました。

新商品のアイデアやニーズを深掘りしたい欲求が生まれたタイミングで、5分、10分の短い時間でもいいので、まずはDAYS GRAPHYに触れてヒントを探ってみる。このような「自分事として、インサイトを積極的に取りに行くカルチャー」の醸成が、全社的な「顧客志向」を実現する鍵になると沢井氏は考えられています。

阪口もインタビュー調査における専門家への依存が高い現状に同意し、「その解決策として、DAYS GRAPHYに熟練のモデレーター が持つスキルを自動で再現する機能を搭載した」と説明。この機能によって、専門的なスキルがなくても、質の高いインサイトを容易に発見できるようになります。

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※ 主にグループインタビューやデプスインタビューなどの定性調査において、議論や対話を円滑に進行し、参加者(顧客)の本音や深いインサイトを引き出す役割を担う人物。

DAYS GRAPHYのデモ画面

AIモデレーター『助けてデイくん!』機能を使うと、DAYS GRAPHYの画面に簡単なテーマを入力するだけで、以下のプロセスを自動実行することができます。

■自動で実行されるプロセス

  • インタビュー質問の設計および最適化
    回答者の無意識を引き出す質問をプロの視点で自動設計。
  • AI同士の対話によるインサイトの抽出
    最適化された質問を仮想顧客像(仮想回答者)に投げかけ、対話を実施。
  • プロのモデレーター視点での回答解釈
    対話結果を踏まえ、「プロのモデレーターならどう解釈するか」という示唆(サジェスチョン)を出力。

阪口は、「これまで専門家に依存していた業務を DAYS GRAPHYによって一般化することで、日常的に顧客の深層心理にアクセスできる環境を実現したい」と語りました。

AI時代に企業が勝ち残るために必要な「洞察力」

最後に、沢井氏は今後のマーケティング領域の展望として「洞察力」の重要性を強調されました。

「今や、生成AIを使えば、誰でも同じレベルの情報が手軽に得られるようになった。このAI時代において、商品開発の成否や企業の生き残りの勝敗を分けるのは、情報から『他の人が気づかない、独自の視点(洞察)をどれだけ見つけられるか』。ここでしかオリジナリティが出せない状況になると予想している。生成AIが情報収集を代行するからこそ、人間は『手持ちの情報をどのように解釈し、どのように動くか』に集中すべき」

講演はここで終了し、続いて質疑応答の時間へ。
山田氏からの質問に、主に阪口が回答しました。

■質疑応答
Q1. 顧客理解における、通常のインタビュー調査と DAYS GRAPHYの精度の違い

A1. PoCの結果、DAYS GRAPHYから得られた結果と数百万円規模のインタビュー結果を比較しても、大差ないことが実証されている。
ただ高負荷な定性インタビューを代替するのではなく、その前段階の基礎調査において、高い精度のインサイトを迅速かつ低コストで提供することが目標である。従来の「統計的優位性」ではなく、利用者の共感や深掘りのきっかけとなる「納得的優位性」を追求している。

( DAYS GRAPHYとインタビュー調査の両方を実施している沢井氏のご意見)
私は精度そのものよりも、DAYS GRAPHYがリアルの顧客インタビュー調査の「助走」、つまり準備に使える点が最も重要だと考えている。インタビューでは自分が気づいていない質問はできない。DAYS GRAPHYは、その「気づき」を得るまでの時間を短縮し、インタビューのハードルを下げてくれる。最終的な精度は、調査結果を見た人間が「どのように解釈するか」にかかっており、どちらの手法であっても使い方次第だと考えている。

Q2. DAYS GRAPHYの活用における情報漏洩への懸念

A2. 生成AIを利用した際のデータ流出の懸念があることは理解しており、DAYS GRAPHYも商用利用を前提として厳格に運用している。本サービスに登録いただく口コミやアンケート、未公表の機密情報を含むすべてのデータは、契約に基づき、必ずお客様専用の環境内に完全に閉じた状態で利用いただく。AIモデルの汎用的な学習に転用されたり、外部流用することは一切ないので、ご安心いただきたい。

”生成AIを「答えを教えてくれるツール」と捉えて”答え”を求めるのではなく、その背景や真意を深く読み解く 人間の「洞察力」 こそが、AI時代における商品改良や商品開発、イノベーション創出の成否を分け、企業の競争優位性を確立する鍵となるーー”

本講演は、この重要な示唆をもって締めくくられました。

当社は今後も、お客様の理想実現に向けて、システム導入はもちろん、さまざまなご支援を続けてまいります。成功事例やノウハウ・知見をお伝えするウェビナーの実施、展示会への出展なども随時行っていますので、ご期待いただけましたら幸いです。

(取材/編集:経営推進部 ブランドマネジメントチーム)

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