ふるさと住民登録制度が「地域のファン」を「担い手」へ変える ─自治体向け関係人口CRM「region CRM」チームインタビュー

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2026年3月、総務省は「ふるさと住民登録制度」ガイドラインを発表しました。住民票はそのままに、関心のある地方自治体に登録することで、地域の情報や担い手活動の機会を継続的に受け取れる新しい仕組みです。

ふるさと住民登録制度には、誰でも登録可能な「ベーシック登録」と、マイナンバーカードによる本人確認を必須として、年3回以上の活動を条件とする「プレミアム登録(最大3自治体まで)」の2つの区分が設けられています。観光に来た「交流人口」でも、移住した「定住人口」でもない、地域や地域の人々と多様に関わる人々を指す「関係人口」を、制度として可視化していこうとする試みです。

総務省|地域力の創造・地方の再生|関係人口・ふるさと住民
令和7年度補正予算及び基本的な制度設計案(令和8年1月時点)より

2026年度内の制度の本開始を予定しており、現時点では、ふるさと住民登録制度モデル事業に選ばれた自治体や先行して関係人口の募集を行う自治体による登録が始まっています。

すでに地域を応援する仕組みとして定着したふるさと納税が「税収」という指標で語られてきたとすれば、ふるさと住民登録制度の主役は「人」。地域と人々がどんな関わり方をするのか、その関係性をどのように育てていくのかが鍵となります。

シナジーマーケティングの地域創生事業のひとつ「region CRM」は、志賀高原、高知県日高村、岐阜県関市など複数の自治体で、関係人口づくりを支援してきました。ふるさと住民登録制度の開始にあたって、region CRM 担当の篠原さんと松澤さんが実感しているのは、「地域を応援したい」から「地域の力になりたい」へという関わる人々の動機の変化でした。

※ふるさと住民登録制度に関する情報・部署名・役職は取材当時(2026年6月)のものです。

プロフィール

篠原さん
region CRM 責任者。志賀高原・日高村・関市など、複数自治体の関係人口創出を支援。

松澤さん
region CRM 担当。関係人口創出に関する企画制作・運用支援を担当。

森内(聞き手)
経営推進室 ブランドマネジメントチーム シニアディレクター

目次

移住率1%未満。ふるさと住民登録制度が狙う「もうひとつのゴール」

―― ふるさと住民登録制度は、単なる少子高齢化対策ではありません。 地域の人口が減り産業や文化を維持する人手不足がますます拡大している一方で、都市部を中心に「普段の生活・仕事とは別の場所で、もうひとつの自己実現をしてみたい」という願望を持つ人が少しずつ増えてきている―― 。 ふるさと住民登録制度は、その両者をつないで自治体と生活者の双方をハッピーにすることを狙った制度です。
自らも二拠点生活にチャレンジしたことがあり、数年にわたってさまざまな自治体に提案を行っている篠原さんは、制度の背景と設計思想について、こう語っています。

篠原: どの自治体も何年も前から、移住・定住には相当な予算を投じてきました。それでも、100人募集して移住に至るのは1人いるかいないか、「1%未満」の厳しい世界なんです 。だから、ゴールを移住に置くんじゃなくて、もうちょっと手前に置く。観光客やふるさと納税のような交流人口の延長として、農作業やボランティア、お祭りの手伝いといった地域活動の担い手をどれだけ増やせるか。ふるさと住民登録制度が狙っているのは、そこだと考えています。

―― 地域外の人が地域と関係性を深める過程を、篠原さんはこう説明してくれました。

篠原: 交流人口があって、次にファンというものがあって、その次が関係人口、そこからさらに関係が深まって良いタイミングがあったとき、はじめて移住・定住につながる、というようなステップがあると考えています。このなかでも、「ファンと関係人口が混ざっている層」が、ふるさと住民登録制度をきっかけに当社がさまざまなお手伝いをできる層であると考えています。

―― 観光して終わりではなく、必ずしも移住を期待するわけでもない。その間にある、地域外に住みながらも、定期的に訪れることができる関係を制度化して国からもバックアップしていこう──。ふるさと住民登録制度は、そのような仕組みと考えられます。

ファンと関係人口を分ける動機 ─「地域を応援したい」から「地域の力になりたい」へ

―― では、その「ファンと関係人口が混ざっている層」のなかで、ファンと関係人口は何が違うのでしょうか。

篠原: 両者の違いは、動機にあると思っています。ファンが「その土地の食や文化や風景が好き」といった遠巻きの応援にとどまるのに対し、関係人口は地域に対して「力になりたい」という当事者意識を持っています。そこには、自分がいることをその地域から認められたい、あるいは役に立つことで必要とされている感覚を得たい、という思いがあります。
ファンの場合、動機は自分の側にあります。「あの地域の魚が好き」「あの祭りの空気が好き」など、応援の気持ちはあっても、関係はどこまでいっても「観る」「味わう」「贈る」のような行動にとどまります。一方、関係人口と言えるような人の動機は、自分と地域の間にあります。「この地域の役に立ちたい」「あの人にまた会いに行きたい」「ここに自分の居場所がほしい」。応援するだけではなく、地域にいる人に認めてほしい、その地域に必要とされたい、という思いがあるのではないでしょうか。

―― この違いは、地域側の課題やニーズにもマッチします。

篠原: 地域は観光するだけではなく、そこから一歩踏み込んで、関わってくれる人を求めています。私自身、高知県日高村に通っていた時期には、トマトの定植や、伝統的なお祭りのお神輿を担ぐお手伝いをさせてもらいました。草刈りなんかも地域の中で助け合ったり、外から来た人に体験としてお願いしたりすることが日常茶飯事です。観光に来てくれる人やお金を落としてくれる人だけでは地域は回らない場面が、現実として起きています。だから、 1回限りの興味本位で来る人より、「また来たで」と顔のわかるかたちで関わってくれる人も、地域には必要なんです。

―― 「応援したい」から「力になりたい」へ。一足飛びにこの動機の変化を生み出すことは困難なので、交流人口やファンから時間をかけて、地域の魅力を発信し、関わり方を提案していくことになります。

「うちには観光資源も名産品も何もない。」自治体の思い込みを変えるお手伝い

篠原: 「うちには何もないから」とおっしゃる地域は非常に多いです。謙遜ではなく「何もないから、田舎だから、ふるさと住民登録制度を始めたところで誰もうちに登録しないだろう」と思われています。

―― しかし、外から訪れる人の目には、まったく違うものが映っていることもあります。

松澤: たとえば、志賀高原には「電柱」が”ない”んです。これはこの地域を快適と感じさせる重要な要素ですが、住んでいる人や来訪者の多くは「理由はわからないけれど心地いい」という漠然とした魅力として捉えています。だから企画の場では、「そういった”漠然”を具体的にするために、まずは言語化してみましょう」とよくお伝えしています。なんとなく感じていた魅力の理由がパッと明確になることで、受け手が地域の価値を再確認でき、愛着がさらに深まるからです。自治体側が「うちには何もないから・・・」とおっしゃっていても、外部の人にとっては、その”ないこと”自体が大きな魅力になることも”ある”んです。

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―― 観光者ガイドには載っていない、地域の魅力の例は他にもあります。

篠原: 志賀高原は国立公園で、新規参入が難しいんですよね。だから家族経営のような小さな宿が今も多く残っていて、リピーターには行きつけの旅館が3つくらいある。その結果、毎年「そのお宿の人に会いに行く」こと自体が訪れる目的になるような、幸せな関係性ができているんです 。

―― 「この町だったら、こんな関わり方もできそうですね」。篠原さんと松澤さんは地域の魅力を「観る対象」から「関わる対象」へ翻訳して、自治体の方にお話しています。

篠原: 岐阜県関市では、ふるさと住民登録制度に先駆け「せきファンクラブ」という会員組織が昨年組成されました。弊社では会員のデータベースやメール配信のご支援を行っており、2026年6月1日には会員向けのマイページも公開されました。こういった取り組みを通じて、継続的な関係づくりに接続する設計を提案するのが、わたしたちの役割です。

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人が人を呼ぶ。 ふるさと住民登録制度モデル事業に選ばれた日高村

―― 人口約5千人の高知県日高村では、地域おこし協力隊の卒業生が立ち上げた地域商社「一般社団法人nosson」による地域の学び・お手伝いサービス「いきつけいなか」を運営しています。地域の求人情報やイベント、ふるさと納税などさまざまな接点から集まった人を当社のCRMシステム「Synergy!」で一元管理し、継続的な関係づくりにつなげていく取り組みです。「いきつけいなか」の会員は地道に増えており、日高村は3月に発表されたふるさと住民登録制度のモデル事業地域にも選ばれました。

篠原: 日高村は、移住者だけではなく、地域おこし協力隊の募集にとても力を入れています。一方で、来る人は誰でも良いわけじゃなくて、彼らの目で厳選しているんですね。どれだけ熱意があっても、地域に合わないなと思ったら別の自治体を紹介したりもする。だからこそ、来てくれた人と地域の間に信頼関係が生まれて、定住にもつながっています。
都会から距離はあるけれどアクセスは良く、環境も人もいい。そういう条件に加えて、地域に合う人を受け入れてきたからこそ、人が人を呼ぶということができています。地域おこし協力隊として来た人が、任期終了後に自分で事業を始めて、その人がまた次の人を呼んでいく循環です。

関係人口創出×ふるさと納税×CRM戦略による地域のファンづくりプラットフォーム「いきつけファン(仮称)」を全国のいなかに提供開始 <高知県日高村 発>

篠原: 普通の観光地って、どんなに好きでも3年か4年に1回くらい行けば十分なんですよ。毎年同じ場所に行くって、よっぽどのことだと思います。「あの人に会いに行く」「あのコミュニティと関わりに行く」という理由がある地域は、毎年でも訪れたくなる。観光以上のリピートを生むのは、その場所に「自分が必要としている人や関係がある」という実感なんだと思います。

―― 「地域のファン」が「地域から必要とされる担い手」へと変わっていく。その変化を支えるのは「人」と「人」の関係性なのですね。

2〜3年での異動や予算・人材不足・・・ 自治体の課題を解決する「関係人口CRM」とは

―― ところで、ふるさと住民登録制度という新しい枠組みに対して、自治体の現場の反応はいかがでしょうか。

篠原: 実のところ、まだ多くの自治体は様子見という印象を受けています。役所の方もふるさと住民登録制度のことは知っているけれど「で、具体的にどうすればいいの?」という反応が大半で、「よく分からない」というのが今の温度感です。だからこそ私たちは、そのまま説明せずに「地域のファン作り」という分かりやすい言葉でお話しするようにしています。

―― どの自治体も予算や人手が足りないと聞きます。リソース不足の状況で、どう進めればいいかもわからなければ、どうしても様子見になりそうですね。

篠原: ええ。加えて、自治体の担当者は2〜3年で部署異動があるので、前任の方が始めた取り組みが十分に引き継がれないまま縮小・終了してしまうことも珍しくありません。ふるさと住民登録制度は短期間でわかりやすい成果が出るものではありませんから、自治体にとっては「いかに無理なく始めて、やめずに続けることができるか」が一番重要です。

―― やめずに続ける。ここに、当社が企業向けに提供してきたCRMとの接点があります。CRM(Customer Relationship Management)は、本来「顧客との関係性をマネジメントする」考え方を指します。一度きりの取引ではなく、相手の関心や状況の変化を見ながら、継続的にコミュニケーションを設計していく ──  当社は創業以来、中小企業を中心としたCRMのご支援をずっと続けてきました。わたしたちの言葉を使えば、ふるさと住民登録制度を始めるということは、自治体が関係人口のCRMを始める、ということに他なりません。

松澤: 地域に関心を持ってくれた人をデータベースで可視化し、適切な情報や活動の機会を届け、行動の履歴を踏まえて次のコミュニケーションを設計する。これは企業がお客様と長期的な関係を築くためのCRM活動と、考え方はまったく同じです。

篠原: 当社の「region CRM」は、数千社の企業様にご利用いただいているプロダクト「Synergy!」がベースなので、使い勝手やサポート体制にアドバンテージがあります。また、システムを入れるだけでなく、自治体の担当者が変わっても運用の仕組みが残るよう、25年のノウハウを持つ私たちがパートナーとして伴走する。それがシナジーマーケティングの強みです。
「まずはお手軽に、安価に始めてみませんか」と提案し、予算が少なくても継続できる運用を一緒につくっていくのが私たちの役割です。

―― 地域に必要なのは、関係を「集める」こと以上に「続ける」ための仕組みなのですね。

篠原: 会員をただ増やすこと自体は、正直それほど難しくありません。たとえば、都市部でのイベントで産品の試食をフックに1日で1000人以上の会員を集めたこともあります。ただ、それが質の良い集客とは限りません。それに比べると、日高村の「いきつけいなか」の会員は、継続的な情報発信や、移住相談会、小さなイベントの積み重ねによって、数百人規模の非常に良いファンが集まっていると思います。

ふるさと住民登録制度は「人と地域がお互いに必要とし合える関係」をつくる機会

わたしたち生活者にとってふるさと住民登録制度は、住所地以外にも「自分が応援したい地域」「自分を必要としてくれる地域」を持てるようになる、はじめての仕組みです。

「必要とされている、だから力になりたい」という感覚は、人が社会で前向きに生きていくための大事な感覚のひとつです。日々の仕事や生活に忙しいわたしたちは、もうひとつのふるさとを持つことで、生き方の選択肢が広がり、もっと充実した毎日を送ることができるかもしれません。そしてそこから生まれる関係性と活動が、担い手が不足している地域を持続させる新しい力になります。

シナジーマーケティングは、ふるさと住民登録制度を「人と地域がお互いに必要とし合える関係」を社会の中で設計し直す機会として捉え、「region CRM」ともう一つの事業「FAVTOWN」を通じて「関係人口CRM」という新しい領域に注力しています。25年の企業向けCRMの知見をもって、自治体や地域が始める新しい営みに長く寄り添う伴走パートナーでありたいと願っています。

(取材/編集: 経営推進室 ブランドマネジメントチーム)

関係人口CRM ソリューションの紹介

region CRM

https://www.synergy-marketing.co.jp/region_crm/

地域に関わりがある人々を会員データベースで可視化し、メール配信/プッシュ通知/クーポン/バッジ/マイページなどの機能で「関係性を継続させる」ことを支える、自治体向けのSaaSパッケージ。シナジーマーケティングが25年にわたり数千社の企業様へのマーケティング支援で蓄積してきたCRMの知見を「関係人口CRM」として応用した仕組みです。志賀高原、高知県日高村、岐阜県関市などで導入実績があります。

FAVTOWN(ファボタウン)

https://www.favtown.jp/

地元を離れても地域とのつながりを形成・維持・深化させ、地域に関わる人々を「資産」として数値やデータで捉えながら、自治体・地元企業・大学・団体と連携した継続的な接点を実現する、関係人口創出プラットフォーム。CRMに基づく最適なコミュニケーション設計により、一時的な関わりを超え、将来的なUターンや持続的な地域参画へと導く絆を育みます。2026年6月現在、和歌山県・愛媛県・静岡県・鹿児島県・北海道の自治体で展開中。

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